らくだジャーナルTOP>南米旅行 

 

南米旅行
(旅行期間は1990年1〜7月)

その1 南米犯罪事情 ↓このページの下↓ チチカカ湖の浮島、ウロス島の葦舟
   
その2 南米経済事情
   
その3 その後の南米事情
   
番外編 ニューヨーク居候生活
チチカカ湖に浮かぶ葦でできた島、ウロス島。(ペルー)
 
その1  南米犯罪事情

 南米旅行に盗難をはじめとするトラブルはつきもの。ほかの旅行者に出会うと、たいてい「どこで何を盗まれたか」という話になる。面白いのは知能犯が多いことだ。敵は演技力で勝負してくる。力づくで奪われれば、私のような1人旅の女性はひとたまりもないが、知能犯が相手とあれば、「受けて立とうじゃないの」という気にもなる。私の場合、盗難未遂4回のうち3回までが知能犯の仕業だった。

●リマ
 一番最初は南米入りして3日目、ペルーの首都リマのバスターミナルだった。込み合ったカウンターで切符の予約方法を尋ねていたら、中年女性が「セニョリータ」と声をかけてきた。私のTシャツの背中を指差している。ん?と見てみたらゲッ! TシャツばかりかGパンにもシャンプーみたいなのがべったりとついている。うろたえていたら、その女性が親切にも持っていたハンカチで私の背中を拭き始めた。感謝感激の私だったが、「バッグの肩ひもにもついているからはずしなさい」と言われて気がついた。この手の泥棒が多いと聞いたばかりだったのだ。
 彼らは何人かでグルになっている。1人が歯磨きやシャンプーを後ろから旅行者につけ、もう1人が「発見者」に扮して親切に拭いてあげる。動転している旅行者は言われるままにバッグを渡してしまい、貴重品をなくすケースが一般的らしい。

ブエノスアイレス
 同じ手口の人はアルゼンチンのブエノスアイレスにもいた。国会議事堂の近くでベンチに座ってボーっとしていたら、突然背後に水気を感じた。手を後ろに回したら、汚い色の液体が髪、トレーナー、Gパンと広範囲についている。そして後ろに立っていた女性が頭上のハトを指差した。トリのフンと言っているのだ。そして彼女も私の背中を拭いてくれた。今回の女性はもう少し演技がうまく、自分の持っていたカバンを私に預けて拭いてくれるところがニクイ。
  しかし、この匂いはどうみても(嗅いでも?)マスタード。その上、やっぱり彼女の注意は私のバッグに集中してしまう。「それも汚れているからよこしなさい」と言われ、「もういいわ。どうもありがとう」と立ち去った。それにしても、つけるんだったらシャンプーや練り石鹸にしてもらわないと、マスタードやケチャップじゃ、あとで洗濯するのが大変だ。もしつけられたら、じたばたしても遅いから、なるべくなら拭かせるだけ拭かせてから立ち去るのが得策だと思う。

●ポトシ(ボリビア)
 
お次はボリビアのポトシだ。日中、町外れを歩いていたら、男性に呼び止められた。私服警官だという。身分証明書も持っている。コカインの所持をチェックするから、バッグの中を見せろと言う。このとき別の男性がそばを通りかかった。私服警官は彼も呼び止めて荷物を調べると言う。この男性は「ポリスの言うことだから」と素直に警官に従った。私もついていったが、警官が入っていったのは空き地のようなところだ。

 「警察のオフィスに行かなければ、私は何も見せないぞ」と多少怒りを含んだ声で言ったら、もう一人の男性に「ボリビアのポリスには逆らわないほうがいい」とたしなめられた。この男性はおとなしくバッグの中を見せている。次は私の番だった。まずパスポートのチェック。そしてバッグを開けたら、この警官は私の財布にしか目が行かない。なぜか財布を開けてお札を数えたりしている。「コカインのチェックでしょ!」と財布をひったくったら、またこの男性から「ポリスに逆らうのはまずいよ」と言われた。

 ここでやつらがグルだということにようやく気づいた。「私はコカインなんて持ってないからチェックの必要なんてないわよ。くやしかったら逮捕してみな!」と捨て台詞を残して歩き始めたら、「警官」と仲間があわてて追いかけてきた。まだポリスがどうとか言っている。

 あんまりにもバカらしいので振りかえりざまに追い払おうとした手が「警官」の顔をピシャリとぶってしまった。これで2人ともおとなしくなり、それ以上追いかけてこなかったが、この手の芝居に引っかかる旅行者は多いようだ。 後で考えてみれば、見せられた身分証明書もコピーをパウチッコして作ったもので、注意していたら最初から見破れたはず。それなのに嫌な思いをして、物の弾みとはいえ暴力を振るったりして、大和撫子としては恥ずかしい限りだ。反省。

サンチャゴ
 こうした演技派の物取りが変化球的とすれば、チリのサンチャゴで遭ったスリ被害はズバリ!直球勝負だった。ペルーからチリに入って雰囲気は一変。いかにも安全そうなのですっかり油断していた。バッグの幼稚園児式斜め掛けをやめ、カメラをクビからぶらさげて、週末の繁華街をぶらぶら歩いていた私がいけなかった。

 とにかくすごい人出だ。ふと私のバッグが不自然な力で引っ張られたような気がして「ん?」とバッグを見ると、ぎょっ! 私の赤い財布が目に入った。スリだ! 正義と自分の財産をこよなく愛する私は瞬間的に逆上した。「ちょっとあんた、何するのよ」と罵りながら手をつかむと、そいつは女だった。しかし、つかんだ手には既に私の財布はない。それでも私は諦めない。「ふざけんじゃないわよ。なんだと思ってんのよ。あんた」と言いながら、彼女のポケットのあたりを上から触ってみるけど、手応えはない。

 人も集まってきたし、なんとなく引っ込みもつかなくなってもみ合っていると、彼女の左手から私の財布がポトリと落ちたではないか! 素早くそれを拾った私はさらに勢いづいて「バカにしないでよ」と彼女を罵った(もちろん全部日本語)。人垣は既に五重くらいになっていて、警官2人がやってくるまでそんなに時間はかからなかった。

 警官は私と女スリを近くの警察署に連れていったが、英語を話す警官は出払っているらしく、そこで待つことになった。この時私は南米旅行を始めたばかりで、スペイン語はほとんど話せない。頼りになるのはスペイン語の虎の巻だけ。しかし、この虎の巻には「スリ」という言葉が載っていないではないか。しょうがないから「財布」と言ってみたら、「ハア?」という反応で、「赤い財布」なんて言ってみたら、自分でも惨めになるだけだった。

 英語を話す係官はきっかり2時間40分後に現れた。係官によると、彼女は常習犯の女スリらしい。外国人旅行者がスリを捕まえたのは記憶にないと言っていたから、私が初めてかも。でも表彰はしてもらえなかった。 あとになってから、財布の中には3ドル分のチリ・ペソしか入っていないことに気がついた。英語のできる人がくるまで3時間近く待ったことを考えれば、すられたままのほうがよかったかもしれない。→2.南米経済事情へ


らくだジャーナルTOP>南米旅行