●新疆時間で混乱
 |
前にも書いた通り、中国は全土で同じ時間を使っていて、アメリカみたいな国内の時差はない。はるか最果てのカシュガルは、夜10時をすぎても西の空に夕陽がしがみついている。体内時計も狂いがちだ。一般の人々は公式時間を「北京時間」と称し、実際の生活にはそれよりも2時間遅い「新疆時間」を利用して、2つの時間を使い分けている。つまり北京時間の午後10時は新疆時間の午後8時になるわけ。といっても、旅行者に関わってくるのは北京時間だけ。列車やバスの時間も北京時間が基準だし、ホテルの朝食時間も「北京時間の9時から11時です」と説明された。唯一の例外がカシュガルの国際バスターミナルだった。
|
| カシュガルのバスターミナル |
パキスタンに旅立つ前日、バスターミナルで切符を買う。スストまでの一泊二日の行程で270元。切符売り場の女性は「北京時間の午前10時発」と言った。当日は急いで朝食を済ませ、早めにバスターミナルへ。ロンリープラネットのガイドブックに「左側の席の方が眺めが良い」と書いてあったので、なんとしても左の窓際の席をゲットしたかったからだ。ところがどのバスに乗ればいいのか分からない。バスターミナルで働いているらしい制服の女性に尋ねたら、「北京時間で10時発だからバスはもうすぐ来る」と言われた。でも、改札にいるオヤジは「新疆時間の10時だからまだまだ」と冷たい。周りにはパキスタンに行く乗客はいないようだ。
| ちょうどそのときタクシーが止まり、バックパッカーが走り込んできた。日本人だ。彼も「パキスタン行きは北京時間の10時」と言われ、寝坊をしてあわててタクシーで駆けつけたと言う。彼(Sさん)と手分けしていろんな人に尋ねた結果、バスが出るのは新疆時間の10時らしいということが分かった。日本語で会話して時間をつぶす相手が見つかったから、まあ良しとしよう。 |

|
| カシュガルからスストへの国際バス(途中のウパルにて) |
そのほかの乗客は出発時間をちゃんと把握していた。北京時間の11時半ごろになって、ようやく白人の旅行者とパキスタン人が集まってきた。乗客は予想よりもはるかに少ない。ドイツ人の女性2人組とイギリス人の女性2人組はパキスタンまで行かず、中国側の国境手前の町タシュクルガンまで行って引き返すのだそう。パキスタンに行く外人旅行者は私とSさんだけ。中国で買った大量の家電製品を引きずるようにして持ってきたパキスタン人の運び屋のおじさんも3人だけで、そのほか「パキスタンにショッピングに行く」というウイグル族のおばさん2人が乗っている。乗客は合計11人だ。パキスタン人が荷物をバスの屋根に積むのに手間取り、バスは北京時間の12時20分ごろようやく出発した。
●タシュクルガンへ
 |
このバス、国境を越えて走る「国際バス」にしてはボロい。朝方出ていったビシケク行きは結構いいバスだったのに。開かない窓(写真が撮れないからダメ)があるし、寄りかかると不自然なほど後ろにしなる座席もある。こんなバスで2日がかりの旅ができるのかちょっと不安になる。
|
| ウパルで見かけた家畜市 |
カシュガルを出発しても、「ここからカラコルム・ハイウェーが始まる」なんて表示があるわけじゃない(ひょっとすると何かあったのかもしれないけど、全く気がつかなかった)。町を出ると道の舗装は急に悪くなり、振動がお尻から伝わってくる。1時間ほどでウパルの町に着いて昼食休憩になった。といっても、運転手は無言でさっさと降りてどこかに行ってしまったので、何分停まるか分からない。お腹も空いていなかったので、町をぶらぶら歩くだけにとどめる。30分たってようやく運転手とパキスタン人が帰って来た。
| ウパルをすぎてしばらくすると、山がだんだんと近づいてきた。空はどんよりと鈍い色をしている。濃淡の差はあれ、辺り一面灰色の世界だ。山に入ると、土砂崩れであちこち道が寸断されていて、バスは平らな路面を探して右往左往。道そのものが流されてしまっているところも多い。道がないところは、土砂崩れのあとで大きな石だけどけて、そこを無理やり通っている感じ。バスはぎしぎしと悲鳴をあげ、そのうちバラバラに分解してしまうのではないかと怖いぐらい。何回かエンストした。たまに対向車がくると、すれ違うのに一苦労だ。 |

|
| バスの窓から見えるのは灰色の山々。雪を被った山がだんだん近づいてくる |
4時前にギェズに着く。乗客はいったんバスから降りてパスポートチェックを受ける。近くの小屋に日本語で「ホテル」とか書いてあったけど、こんなところに泊まる人がいるんだろうか。ここでトイレタイム。私が「女」と書いてある方に迷わず進んで行くので、白人の女性たちも「中国語ができるといいわね」なんて言いながらついてくる。覚悟はしていたけど、穴が開いただけのトイレには度肝を抜かれた。白人の女性は私よりももっと驚いていたみたいで、悪態をついていた。まぁ、こんなところまで来てしまったんだから我慢するしかない。
ガイドブックの地図から判断すると、この辺りは既に高度3000m近い。前方に見える高峰はコング-ル山(7719m)だろう。カシュガルを出たころは暑くてしょうがなかったのに、さすがに冷え込んできた。白人女性たちは軽装なので寒そうにしている。

|
ギェズを出てしばらくすると、辺りの景色が変わってきた。それまでは川沿いに谷を走っていたけど、いつのまにか高度を上げて高原に出たという感じ。ここがまさにパミール高原なんだろう。これまで無彩色だった世界がほんのりと緑色に染まってきた。草原だ。ヤクもいる。ネパールでヤク・ダンスというのは見たことがあるけど、本物のヤクを見るのは初めてだ。毛皮の帽子を被った男性が馬にまたがり、ヤク3頭を追っている。われわれの住んでいる「下界」とは全く別の世界があった。 |
| 標高約4000mの高原で放牧される羊たち。(バスの窓から) |
中国最後の観光地カラクリ湖に差し掛かったのは6時前。晴れていれば素晴らしく美しい湖らしいのだが、どんよりと灰色の湖面で、全く感銘を受けなかった。6時を過ぎたらいきなり雪が降ってきた。もうすぐ6月だというのに、さすがに標高4000mだけある。降り出したかと思ったら、あっという間に吹雪いてきた。しかも、吹雪の中を自転車でカシュガル方面に向かう人が2人いる! 窓を開けてkeep
hangin' onと応援したら、手をあげてこたえてくれた。
| 午後8時ごろバスはようやくタシュクルガン(標高約3200m)に到着。交通賓館前に止まった。タシュクルガンの町はポプラ並木の大通りが一本あり、横道に小さなバザールがあるだけ。ウイグル族だけでなく、タジク族の住民も多い。かぶっている帽子が違うので私にも分かる。町のはずれにある石頭城を見物し、中国最後だと思って漢族のやっているレストランで中華料理を食べる。同じバスに乗っているSさんは軽い高山病にかかったらしく気分がすぐれないようだが、私は食欲も普通で特に問題はなさそう。明日は「北京時間の10時出発」と確認する。→4密輸入を手伝う?へ進む |

|
| タシュクルガンの町外れにある石頭城 |
|