バスの運転手は最後の案を支持した。確かにヒッチして町に行ったところで、ハバナまで行くタクシーを見つけられるかどうか疑わしいし、こういう時は運転手の意見に従うのが一番。よし、約3時間後に通るというビアスールバスを待とうと腹を決めた。そうすると今度はみんな「ほかのバスに乗り換えるんだったら、このバスの運賃は返金してもらえないよ」「ビアスールバスは金持ち用だから20ドルも取られるよ」「あんたトイレ大丈夫? サトウキビ畑の中でやるしかないよ」「今回のトラブルのせいで、あんたはキューバを嫌いになっちゃうんじゃないかねぇ」と、あらたにあらゆることを心配してくれる。
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ウンともスンとも動かないバス |
そうかと思えば、「日本人の髪はきれいだねぇ」と寄ってきて、いきなり私の髪を抜いたオヤジがいた。イタタ…「こらっ!」思わず日本語で怒ったら、白髪を見せられた。「抜いてあげたんだよ」と、涼しい顔をしている。みんなが笑った。いい人ばかりだ。笑っている場合じゃないんだけど、私もつられて笑った。
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このオヤジはグスタボと名乗った。「ビアスールバスが来るまでどうせヒマなんだから、みんなの写真を撮ってよ」なんて、ちょっとずうずうしい。タマラは「写真を送って」と住所を書き始め、続いて乗客を代表してメッセージを書いてくれた」。「心配しないで。今回のバスの一件にかかわらず、あなたが楽しい旅をするように願っています。みんなあなたのことを覚えているから、ぜひまたキューバに来て。みんなを家族だと思って。全員であなたの幸せを祈っています。神様のご加護がありますように。とんでもないバスに乗り合わせた乗客一同より」
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| 左から2番目がタマラ。その右奥がグスタボ。私以外の乗客は、皆、のんびりと構えている。 |
しばらくすると、前方から自転車がバスに近づいてきた。物売りだ。ジュースとジャムトーストを売り始めた。どこから来たのか知らないが、需要のあるとことに供給ありということか。既に10時をすぎていたからみんな腹ペコ。なんとグスタボが私にジュースとジャムトーストをご馳走してくれた。キューバ人に面倒見てもらうのもこれが最後だと思い(甘かった)、残っていた日本の絵葉書3枚をお返しとしてあげたら、グスタボは「9歳の1人娘が喜ぶよ」と嬉しそうだった。
11時を15分ほどすぎただろうか。みんながざわめいた。ビアスールバスが見えてきた。何人かがバス目掛けて走り寄り、バスを止めてくれた。私の窮状を説明してくれている。「大丈夫だ。早く乗りな」誰かが大声で叫んだ。ゆっくり別れを惜しんでいる暇はない。タマラやグスタボなど何人かの人とギュッと抱き合い、ほかの何人かと握手をし、ビアスールバスに走った。後ろから「20ドル取られるぞ」と声が飛んだ。ビアスールバスに乗ってから窓の外を見ると、みんな手を振ってくれている。あんなにいい人たちを置き去りにして、自分だけピカピカのバスに乗り込んでしまったのがちょっと後ろめたい。急に寂しくなってしまった。
冷静になって辺りを見まわすと、そこは別世界。バスはガラガラで、乗客はヨーロッパから来たとみられる白人の観光客ばかり。サトウキビ畑の真ん中で乗り込んできた東洋人の女をうさん臭い目で見ている。車掌はキャンディと飲み物をサービスしてくれた。途中からの乗車だから運賃は14ドルでいいという。20分も走ったところで幹線道路に出てスピードアップ。この分なら十分間に合うと安心した次の瞬間、「15分間休憩します」とドライブインに入ってしまった。こっちは気が気ではないのだが、白人たちはのんびりとアイスクリームを食べたり、ビールを飲んだりしている。おまけにトイレに行ったきりなかなか帰ってこない人がいて、休憩時間は20分以上になってしまった。やばい。→8へ進む
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ビアスールバスの内部 |
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