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●モロッコ・ムーレイヤコブ温泉「ソテルミー」
       
       
 ムーレイヤコブは斜面に張り付いたようにクリーム色の町が広がっている。バスやグランタクシー(乗り合いタクシー)がつくのは町のてっぺん。英語のガイドブックに「温泉に行くには自分の鼻に従え」と書いてある通り、硫黄の臭いにつられて温泉街の階段を降りていく。「モロッコの伊香保温泉」と呼びたくなるようなところだ。階段の傍らにはオリーブ石鹸やアカスリ、バケツや手桶といった入浴グッズをそろえた店や食堂が並ぶ。湯治客の荷物を運ぶのはロバたちだ。
温泉街はクリーム色の町並みで斜面にへばりついている

 ムーレイヤコブには私が確認しただけで、入浴施設が3つある。まず最高級の「Thermes de Moulay Yacoub」。子供に「お風呂はどこ?」と尋ねたら、外国人だからか、ここを教えてくれた。一番の谷底にある。受付ではちょっと英語が通じる。一番安いのが個室ジャグジーで入浴料は15分で100ディルハム(約1500円)。料金だけ聞いてやめた。もともとジャグジーは好きじゃないのに、1500円も出してらんない。

 お次は一番庶民的な施設。窓からはうっすらと湯気が出ていて、窓からいかにも入浴中っていう感じの男性の声が聞こえてくる。建物に入っていったら、すごい人ごみ。運悪くイスラムの「犠牲祭」に当たってしまい、日本の盆や正月のような旅行シーズンに来てしまったのがそもそもの間違いなのだ。

湯治道具を運ぶのはロバ君(左)。温泉街のあちこちでお風呂グッズを売っている(中)。一番庶民的な温泉施設(右)

 おまけにモロッコの人は窓口に行列を作るなんてことはしない。窓口を中心とした半円状の塊をつくり、四方八方から窓口に手を差し込んでいる。その様子を遠巻きにみていたら、黒くて長いコートを着た女性が「ここはプールだ」というようなことを言った。もともと、このプールに入って体調を崩したという人の体験記を読んでいたこともあり、ここもパス。

 最後に行ったのが個室風呂のあるソテルミーだ。外観は温浴施設に見えず、探すのに一苦労した。午前11時45分にやっとたどり着いたら窓口は札止め。それでも半円状の塊はできている。一番外周でしばらく粘り、ようやく私の番が来たときには塊は解消、私しかいなかった。それでもアラビア語もフランス語もできない私のこと、小さな窓口でやりとりするのは大変。脇のドアから切符売り場に入れてもらったところ、「14時、6」と書かれたノートの切れ端をくれた。

 午後2時になったら6番の個室風呂に入れるのだと思い込み、安心して軽食を取り、温泉街をぶらぶらして時間をつぶす。そして午後2時に戻ったら、また塊ができていた。何なんだよ〜。こっちは番号札を持っているのに窓口に近づくこともできない。5分ほどして、そばにいた男の人が私を指差して何か言った。「この人だ」というようなことを言ったらしい。みんながこっちを向いた。 

私が入ったソテルミーの外観。入ってすぐのところで入浴券を売っている

 塊が崩れて私が窓口に行けた。そこでようやく入浴券を買える。どうも午後2時から売り出す入浴券の整理券番号が6だったようだ。種類はジャグジーと普通の浴槽があり、ジャグジーなら20ディルハム、普通の浴槽は15ディルハム。犠牲祭の特別料金(外国人だけかも)で2人分取られ、普通の風呂30分で30ディルハム払った。

 そこでようやく内部に入れる。映画館のもぎりのような人がいて、半券を渡して中に入ると、そこにもまたすごくたくさんの人たちがいる。一体どうなっているの? こっちは軽いパニック状態だ。予定ではとっくにフェズに帰っているはずなのに。どうみても、みんな風呂上りじゃなくて順番を待っている。
私の入浴券は下2ケタが44(左)。このように壁の釘に刺してあるので順番を自分で確認できる(右)

 通路には青いドアが10個ぐらいあり、その中が個室風呂なのは分かる。通路をウロウロしているうち、白衣の小柄なおばちゃんが個室風呂を取り仕切っているのに気づいた。近づいていって私の入浴券を見せたら、入り口近くの壁にある時計のところに連れて行かれた。時計の下に入浴券が串刺しになっていて、一番上の入浴券は下二けたの番号が17。どうもこの番号順に入るらしい。私のはと見ると、44だよ…。

 この時点で長期戦を覚悟。温泉街をブラブラしに外へ出ようかとも思ったが、途中でキャンセルが出て順番が繰り上がるかもしれない。おとなしく内部で待つことにした。どことなく病院というか診療所の待合室みたいな感じだ。みんな待ちくたびれていて、個室に入っている人が30分以上出てこないと白衣のおばちゃんに言いつけたり、自分でドアをドンドン叩いて「時間だよ」と言っている(らしい)。 

順番を待つ人たち。これはすいてきてから撮ったもの左側の上に入浴券刺しがある

 個室から出てくる人たちは、皆うっすら汗ばんでいて満足げな表情。こっちは硬い椅子に座り続けてお尻が痛い。順番待ちのオッサンが声をかけてきたけど、こっちはフランス語もアラビア語も分かんない。そしたら、その人は北部タンジェ(タンジール)から来た人でスペイン語を話した。こちらは片言のスペイン語で苦労して話したところ、モロッコで温泉を利用した風呂は非常に珍しく、たぶんムーレイヤコブだけ。あったとしてもあと1カ所だけとのことだった。プールならほかにもあるそうだ。

 このオッサンの番号は29番で、この人が入ってしまったあとは、全身を黒で覆われて目だけ出した女性に「マレーシア?」と声をかけられたぐらいで、ただひたすら待つ。ようやく私の順番が来たのは4時40分。ソテルミーにたどりついてから5時間近くたっていた。

 個室は6畳ほどの広さ。もちろんドアには鍵がかかるから、日本みたいに裸になって入浴することができる。床にはプラスチックのゴミ箱とスツールが置いてあるだけで洗面器や手桶はない。浴槽はホテルにあるような横になれるバスタブで、客が出るごとにいちおうささっと内部を洗っている様子だ。源泉を出したり止めたりするレバーは部屋の外にあり、入浴客が調節することはできない。お湯は結構熱め(源泉54度)なので最初は加水するしかない。水の蛇口は普通のもので自由に調節できる。
個室風呂の内部。源泉は右手の壁から出ている。正面の壁にあるのは水の蛇口

 お湯は透明で薄い緑色。ゆで卵の臭いだけでなく、わずかに揮発油のような臭いもあった。塩辛くてよくあたたまるお湯だ。硫黄泉と聞いていたのだが、塩化物泉のような気がする。予想以上に個性的な湯で5時間待った甲斐があるというもの。「時間だよ」とドアを叩かれるまで、湯を浴槽からあふれさせたまま堪能した(中からドアをドンドン叩いて源泉の投入を止めてもらっている人もいた)。

 温泉に入るのに5時間待ったのはもちろん新記録だ。多分、記録が更新されることはないだろう。でも、5時間近く待ったのは私だけじゃなく、周りのモロッコ人も同じ。それだけ待ってでも温泉に入ろうという気合いのある人がこんなにたくさんいるのかと思うと、なんだかとても幸せな気分になった。

 断食明けや犠牲祭などの旅行シーズンを除けば、こんなに待たなくても入れるらしい。(2007年1月) 

源泉の投入量は自分では調節できない。写真ではバスクリンみたいな色だが、実際はもう少し薄い

(資料編)

場所:住所は不明。ムーレイヤコブでバスを降り、人の流れに従って、階段を下りながら進む。電話は055−69−4064(アラビア語とフランス語しか通じない)。

入浴料:30分で1人15ディルハム。ジャグジーなら同20ディルハム。私は犠牲祭特別料金とかで2人分払わされた。この特別料金はもしかしたら外国人だけかも。営業時間は未確認。英語のガイドブックロンリープラネットによると月曜定休と書いてあった。

アクセス:
 フェズのマルーク門近くのバスターミナルからバス(7ディルハム)かグランタクシー(10ディルハム)。バスは1時間に1本とのことだったが、満員になると出発するようにも見えた(犠牲祭の時期だったので、通常とは異なるかも)。バスで30分弱。グランタクシーならもっと短いはず。
フェズから乗ったバスがムーレイヤコブについたところ

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